ロサンゼルス・ドジャースを牽引するスーパースター、ムーキー・ベッツ。MVP受賞歴を持ち、球界を代表する選手である彼が今、さらなる進化を求めてある「異例のトレーニング」に取り組んでいます。
その鍵を握る人物が、チームメイトである山本由伸投手の専属トレーナー、矢田修氏です。ドジャースのキャンプ地では、ベッツ選手が「矢田先生(Yada Sensei)」と慕い、マンツーマンで指導を受ける姿が大きな話題を呼んでいます。
なぜ、すでにメジャーの頂点を極めた打者が、日本人投手のトレーナーに教えを請うようになったのでしょうか?その背景と独自の練習方法、そしてベッツ選手本人が語る劇的な変化に迫ります。
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データが語る前年(2025年)の不振と打撃メカニクスの迷い
ベッツ選手が矢田トレーナーの門を叩き、新たなトレーニングへの探求を深めた背景には、前年(2025年シーズン)に直面した打撃面での苦悩がありました。
ショートへの本格的なコンバートを果たした2025年、守備面では17のDRS(守備防御点:メジャーのショートでトップタイ)を記録し、ゴールドグラブ賞の最終候補に選ばれる素晴らしい適応を見せました。しかし、その一方で打撃成績は、彼本来のMVPレベルからは程遠いものに終わりました。
【2025年 レギュラーシーズン打撃成績】
- 打率: .258
- 本塁打: 20本
- 打点: 82
- OPS: .732
キャリアハイとなる39本塁打、OPS.987を記録した2023年と比較すると、確実性と長打力の両面で明確な指標の低下が見られます。特にOPS.732は、彼の輝かしいキャリアの中でも極めて低い水準でした。
極度のスランプに陥った時期について、ベッツ選手自身も現地メディアに対し「自分を見失い、悪循環に陥ってしまった」と吐露しています。スイングの軌道に狂いが生じ、選球眼も一時的に悪化してしまいました。チームが歓喜に沸いたポストシーズンでも、大谷翔平選手が敬遠され、あえて不調のベッツ選手との勝負を選択される屈辱的な場面が見られました。
この「打撃面での不完全燃焼と悔しさ」こそが、オフシーズンから春のキャンプにかけて、彼をかつてない身体操作の改善へと駆り立てる強力な原動力となったのです。
「彼が自分と同じ体格だったから」〜教えを請うようになった背景〜
打撃改善への模索を続ける中、ベッツ選手が矢田トレーナーの指導に興味を持った最大の理由は、山本由伸投手の「体格」と「圧倒的なパフォーマンス」のギャップにありました。
メジャーリーグにおいて、筋力トレーニングによるパワーアップが主流となる中、山本投手はウエイトトレーニングに頼らず、独自の身体操作で100マイル(約161キロ)に迫る剛球を投げ込みます。
ベッツ選手は身長約175cm、体重81kg。対する山本投手も身長約178cm、体重80kgと、ともにメジャーリーガーとしては小柄な部類に入ります。ベッツ選手は現地メディアのインタビューで、教えを請うた理由をこう語っています。
「もしヨシノブが(196センチもあるような)規格外の体格をしていたら、私は興味を持たなかっただろう。でも、彼は私と似たタイプの体格だ。だからこそ、彼のトレーニング方法に強く興味をそそられたんだ」
自分と似たサイズの山本投手が、なぜあれほどの出力と耐久性を生み出せるのか。その秘密を知るため、ベッツ選手は自ら矢田トレーナーにアプローチし、「全部やってみたい」と志願したのです。
矢田メソッドの真髄:常識を覆す「やり投げ」と柔軟性

矢田トレーナーが指導するメニューは、アメリカ球界の常識からはかけ離れたユニークなものばかりです。中でもベッツ選手が熱心に取り組んでいるのが以下の練習法です。
1. やり投げトレーニング ウエイトで作った一部の大きな筋肉に頼るのではなく、全身の関節や筋肉を連動させ、リズム良く力を伝えるためのトレーニングです。ベッツ選手は毎日この「やり投げ」を行い、身体の正しい使い方とバランス感覚を養っています。
2. 毎朝の独自ストレッチング 単なる筋肉の曲げ伸ばしではなく、関節の可動域を広げ、身体を「しなやかに」使うためのルーティンです。力任せのプレーを防ぎ、怪我を予防する効果もあります。
「全くの別物になった」〜ベッツ本人が語る劇的な変化〜
すでにキャリアの成熟期にある33歳のベッツ選手ですが、矢田メソッドの導入は彼のプレーに明確な恩恵をもたらしています。特に効果が顕著に表れているのが、ショートでのスローイングです。
現地のスポーツ番組『SportsNet LA』のインタビューに対し、ベッツ選手はその手応えを興奮気味に語っています。
「(やり投げは)ヨシのようには遠くまで飛ばせないけど、始めた当初と比べたら『昼と夜(Night-and-day)』くらい劇的な違いがある。内野の深い位置から一塁へ投げる時も、昨年とは良い意味で全くの別物なんだ」
「私は先生(矢田氏)のルーティン全てをこなしているわけではないけど、毎朝起きて先生から教わったストレッチを行い、毎日やりを投げている。三遊間の深い当たりを捕って、空中で力強い送球ができるのは、やり投げのおかげだと思っているよ」
さらに彼は、「ヨシができるなら、自分も『ショートストップ版のヨシ』になれると思ったんだ」とジョークを交えつつ、新たなトレーニングへの絶対的な自信を覗かせています。
打撃への波及効果:ベッツのキャリアでも珍しい「右中間への一発」
そして、このトレーニングの効果は守備だけにとどまらず、彼の最大の武器である「バッティング」にも劇的な進化をもたらしました。その象徴が、今季見せている「右中間へのホームラン」です。
本来、ベッツ選手は驚異的なバットスピードと体の回転力でレフトスタンドへ打球を運ぶ、生粋の「プルヒッター(引っ張り打者)」です。しかし今季は、外角の球を逆方向(右中間)のスタンドへ叩き込むシーンが見られます。
これは、矢田メソッドによる身体操作の向上が大きく関係しています。 全身の柔軟性と下半身の粘りが増したことで、バッティングにおいて「体の開き(左肩の開き)」をギリギリまで我慢できるようになりました。ボールをキャッチャーミットの近くまで長く見極め、体幹の力をバットの先端までスムーズに伝える「インサイドアウト」のスイングが、かつてない高い次元で完成しているのです。
「力」ではなく「身体の連動」で飛ばす。まさに山本由伸投手がマウンドで見せているメカニクスを、ベッツ選手は打席の中で体現しています。
まとめ:現状に満足しない「一流の証明」

すでに殿堂入りクラスの実績を持つベッツ選手が、異国の投手のルーティンを素直に受け入れ、毎朝のストレッチとやり投げを欠かさない姿勢。これこそが、彼が超一流であり続ける最大の理由かもしれません。
矢田修トレーナーとのタッグにより、身体の連動性と柔軟性をさらに高めたムーキー・ベッツ選手。今シーズン、彼が攻守においてどのような次元のプレーを見せてくれるのか、ますます目が離せません。
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